おおぐま狩り

ОХОТА НА БОЛЬШУЮ МЕДВЕДИЦУ

アレクサンドル・ベリャーエフ 著

「致命傷を負ったライオンが僕の上に崩れかかってきて、死んだ。ライオンの血と自分の血を全身に浴びて、傷と戦いとでぐったりしていた僕は、死んだ獣の毛むくじゃらの腹の下で呼吸もままならなかった。ようやく朝になって仲間が僕を見つけて、やっとのことでライオンの体の下から生きたまま引っ張り出してくれて、正気に返った。それでも、僕はライオンには感謝しているんだ。もしそいつがうまいこと僕を覆い隠してくれなかったら、戦場から集まってきたハイエナにずたずたにされていただろうからね。これが僕が言う、死せるものが生けるものの命を救うことが出来るって話だ」ディックは自分の話を結んだ。
「面白い話だ」マイクが、乾いた枝をたき火に投げ入れながら言った。
「うん、でももうちょっと面白い話もあるよ」ニックが応えると、眼鏡がキラッと光って、彼の顔が暗闇から現れた。「もしまだその気があるなら、僕が面白い虎狩りの話をしてやろうか?」
「全然ないんだけど」マイクが口の中でぼそぼそ言った。
 でもどうやらニックには聞こえなかったらしく、たき火に近づくと意気揚々と話し始めた。
「よし、すばらしいね[1]。それがいったい何年のことだったか覚えてないんだけど。19年か……」
「それとも29年か」
「邪魔するなよ、マイク。聞く気がないなら寝てくれていいんだぜ。えっと、それは19年か20年のことだった。僕はアフリカ中を旅していて、虎を狩ることにしたんだ」
「アフリカで虎?」ディックが疑わしげに聞いた。
「邪魔するなよ、ディック」マイクが、燃え始めた細枝でたき火のふちをたたきながら、憂鬱そうに言った。
「そう、アフリカで虎。なにかおかしいかい?」
「言ったろ、ディック、彼の邪魔をするなよ。虎だって旅行するんだ。アジアを出て、紅海を飛び越えて、アフリカに散歩しに行く。そしてタイミング良くニックとお友達になろうってわけだ」
「僕は森の中で座っていた」ニックは続けた。「月が明るい夜で、空は青黒く、そこに一皿分の星を散らしたようだった[2]。夜の闇の中、獣が用心深く忍び寄ってくるのが聞こえて、自分の速射ライフルフィールド2をぎゅっと握りしめた。これは友人のリチャード・フィールドの発明品で48連射のものだ。聞いたことある? ないだろうね。君たちいったいどこにいたんだ? 彼が発明した銃フィールド1は、当時世界中を騒がせたんだ。彼はね、いいかい、原子崩壊エネルギーにも匹敵するような超強力な銃の発明に取り組んだんだから。」
 マイクがかすかにうなった。
「僕自身、フィールド1の最初の実験に立ち会ったんだ。僕らはそいつを携えてスタック・スカリー島[3]へ行って、海岸の人のいない場所で銃の発射テストをすることにした。フィールドは人の胸の高さに的を置いて、発砲した。僕は大音響がするものと思ったのに、弾が風を切る音しかしなかった。標的の方を見ようと二、三歩も歩かないうちに、突然、血まみれになったフィールドがかすかなうめき声を上げて倒れた。誰かの撃った弾丸が彼を突き抜けたんだ。僕らの前には誰もいない。傷を見ると、背中より胸の方が傷口が広いことから、相手は背後から撃ったと確信した。フィールドのように優れた人間には、ねたむヤツや敵がいるからね。
『どこのくそったれだ、こんなことしやがったのは!』哀れな友人を抱き起こしながら、僕は怒りを込めて叫んだ。
『口に気をつけろ』弱々しい声でフィールドが応えた。『まさか分からないのか? もう少しで俺は自分で自分を殺すところだったんだ』
『いったいどうしてこんなことに? 跳弾? 弾が跳ね返ったのか?』
『まさか。弾丸はひたすら前へ飛んでいって、地球の周りを回って、後ろから俺を倒したんだよ』
 僕はあまりにびっくりして、傷ついたフィールドを地面に寝かせると、ゆっくりと自分の体を起こした。その瞬間、僕の帽子が何者かの見えざる手に払い落とされた。拾い上げると、帽子が撃ち抜かれているのに気づいた。弾丸は更に地球を一周してあやうく僕を殺すところだったわけだ。
『いったいこれからどうなるんだ?』慌てて地面に腰を下ろすと、途方に暮れて尋ねた。
『まずい』フィールドが答えた。『弾丸は通り道に当たるものすべてを傷つけて、多くの災いをもたらしているはずだ。自分の銃の威力を分かっていなかったよ。これから弾丸は、小さい衛星になって地球の周りを回り続けることになるだろう。空気摩擦で速度が落ちて地球に落ちるまでね』
『でもほんとに通り道にあるものすべてに穴をあけてるのか? 木にも、家にも、岩にも?』
『まちがいない』フィールドは、失血で意識を失いそうになりながら答えた。
 フィールドは正しかった。弾丸は実際に多くの災いをもたらした。それは行路上にいた何千という人を突き抜けて、ある者は致命傷を負い、ある者は不具になった。そうでなくても、単に人を驚かしもした。暖炉のそばに静かに座っていた、どこかのおばあさんの手にあったカップを粉々に割ったりだとか、僕のみたいに帽子を撃ち抜いたりだとかしてね。
 森では、弾丸は動物を次々と殺し、横たわった死体が見えない糸でつながれたネックレスのような飛跡を形作った。地球はあたかも見えない隔壁で二分され、歩いても乗り物でもその間を行き来することは出来なかった。
 弾丸の通り道全体に柵を設置しなければならなかった。線路や道路がこの「死のリング」と交差する場所にはトンネルか橋が造られた。でも、とりわけ海がまずかった。赤い防護用のブイが禁じられた場所を指し示していた。遠洋航路の便では、危険な場所をくぐるために、乗客は潜水艦に乗り換える必要があった。要するに、弾丸はえらくたくさん煩雑な仕事を作り出したんだ。弾丸対策を講じるために、科学者たちは頭が破裂しそうだったし、技術者たちは狂ったようになっていた。彼らはありとあらゆるものを考え出した。コンクリート製の障壁や鋼鉄製の遮蔽物。でも弾丸はまるでこれらの障害物に気づいていないようにも、飛行速度を弱める気がないようにも見えた。ついに、医者たちが言うところの、「嚢状遮蔽」で解決をはかることになった[4]。これは金属の管に弾道、つまり弾丸の通り道がすっぽり収まるようにしたものだ。そのあと誰かが、抵抗を高めるために管の中を水か油で満たすよう提案した。そして、実行した。ところが液体が摩擦で気体になって管が破裂してしまい、それでも弾丸はなんともなかったんだ! それほどの合金で、こいつは鋳られていたわけだ。」
「いったい最後どうなったんだ?」ディックが興味深く聞いた。
「ただ一人フィールドだけが苦境から救い出すことが出来た。そして、傷が癒えるとすぐに彼は実行した。『毒をもって毒を制すってヤツだ』彼は言った。『逆方向に弾を撃たなくてはいけない』」
「で?」
「で、撃った。一方が他方に突き刺さり、他方が一方を貫通して、粉々の粒子になった。この粒子が反対方向に飛んだら、またも危険なことになっていただろう。でも幸い、衝突で両者は飛行を変えて、破片は宇宙空間をおおぐま座の方向に飛び去った」
「で、おおぐまの足でも傷つけたのか?」真顔でマイクが尋ねた。「でも確かアフリカの虎を狩る話を始めたはずなのに、おおぐま座を狩る話で終わったぞ。お前の虎狩りの話はいったいどうなったんだよ?」
「銃が不発だったんで、僕が虎に飛びついてずたずたにしてやったよ」腹立たしげにニックが答えた。


  1. 自信ないです。原文は、Ну вот и отлично.
    ну :強意、вот и :「とうとう、さあ」、отлично :「満足だ、すばらしい気分だ」。そこから「よし、すばらしいね」としてみたけど、いまいちな感じ。あるいは単に「OK」って感じで話の前置きとして言ってるだけか?
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  2. 原文は、Небо синее до черноты, и на нём звёзды с тарелку.
    まず、синее до черноты が自信ないです。「黒に近い青」として訳す。
    それから、с тарелку も自信なし。с + [対格]が「約〜、〜くらい (около)」、тарелка が「皿、1皿分」。そこから取り敢えず上記のように訳す。
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  3. 原文で、Стэк-Скерри と表記。これをどう仮名書きしたものか?
    あと、原文には、初出誌の編註なのかな? 「世界地図上で確認できなかったけど、それを理由に雑誌の発行を延期したりしませんでした」というようなことが書いてある。
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  4. 原文は、В конце концов её решили, как говорят врачи, "осумковать":
    まず、осумковать をついつい漢字熟語にしてしまったけど、分かりにくいので再考の余地あり。「カバン状化」、「カバン状遮蔽」、「ふくろ型化」、「ふくろ型遮蔽」とかか?
    あと、решить が完了体である理由が分からず、ゆえに正しい訳ができていません(「嚢状遮蔽」で解決していないのに、なぜ完了体?)。「解決する」と訳すのが間違い?
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